外宮(豊受大神宮)の独自性 ― 日別朝夕大御饌祭と『外宮先祭』が示すもの

こんにちは、あいです。

「伊勢神宮といえば内宮」とよく言われます。テレビや観光ガイドで取り上げられるのも、宇治橋や五十鈴川の風景がほとんどで、外宮(げくう)は名前は聞いたことがあるけれど、行ったことはない、という方も少なくないようです。

でも実は、神宮の祭儀は 外宮から始まる のが基本です。神嘗祭(かんなめさい)などの大きな祭典も、まず外宮で行われてから内宮に移る。日々の御饌(みけ)もまず外宮から差し上げる。これは「外宮先祭(げくうせんさい)」と呼ばれる神宮独自の慣わしで、観光のついで参拝ではなかなか気づかないところです。

あい:本を持って解説

今回は、外宮(豊受大神宮)が内宮(皇大神宮)とどう違うのか、外宮にしかない独自性は何なのかを、神宮司庁公式サイト(isejingu.or.jp)の案内をもとに整理してみました。おじいちゃんが「外宮を歩かないと、神宮は半分しか見たことにならないんだぞ」と昔から言っていたので、その言葉の意味も書き留めておきます。

外宮(豊受大神宮)とは ― 衣食住を司る御饌都神

外宮の正式名称は 豊受大神宮(とようけだいじんぐう) です。お祀りされているのは 豊受大御神(とようけのおおみかみ) で、衣食住をはじめとする産業全般を司る神様とされています。

Ise grand shrine Geku 外宮の鳥居

出典: MaedaAkihiko, Wikimedia Commons / CC0

神宮司庁の案内によると、豊受大御神は、内宮にお祀りされている天照大御神(あまてらすおおみかみ)の 御饌都神(みけつかみ) ― つまり、神様の食事をつかさどる神様としてお迎えされた、と伝えられています。雄略天皇の御代(およそ 1500 年前)に、天照大御神のご神託によって丹波国から伊勢の地に遷座されたのが、外宮の始まりとされています。

場所は伊勢市駅から徒歩 5 分ほど。内宮よりもずっと駅に近く、参道に入るとすぐに鬱蒼とした森に包まれます。観光客の数も内宮ほど多くなく、平日の午前中は驚くほど静かです。あたしは、この 「街からふっと森に切り替わる感じ」 が外宮らしさだと思っています。

独自性 1 ― 1500 年続く「日別朝夕大御饌祭」

外宮にしかない最大の独自性は、日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい) です。

これは、外宮の 御饌殿(みけでん) という建物で、朝と夕の 1 日 2 回、天照大御神・豊受大御神をはじめとする神々に、ご飯・お塩・お水・季節の品をお供えするお祭りです。神宮司庁の説明によると、雄略天皇の御代に外宮が鎮座してからこのかた、約 1500 年間、毎日欠かさず続けられている とされています。

伊勢神宮 外宮 正宮 (May, 2015)

出典: Sakaori, Wikimedia Commons / CC BY 3.0

この御饌殿は、内宮には存在しません。神宮全体の神々への日々の御饌は、外宮の御饌殿に集約されている ― ここが外宮の決定的な役割です。「衣食住の神様」をお祀りする宮が、神宮全体の食をまかなっているという構造で、外宮の独自性はこの一点に集約されると言ってもいいくらいです。

朝のお祭りは午前 8 時頃、夕のお祭りは午後 4 時頃に行われると伝えられていますが、神事そのものは外玉垣の内側で執り行われるので、参拝者が直接見ることはできません。それでも、参道を歩いていると、お祭りの時間帯には神職の方々が静かに行き来しているのが見えることがあります。

あいの覚え方:「外宮は、神様のごはん係」。シンプルに言うと、こうなんだとおじいちゃんが教えてくれました。

独自性 2 ― 「外宮先祭」の慣わし

ふたつめの独自性は、祭儀と参拝の順序にあります。

神宮司庁の案内では、神嘗祭(10 月)・月次祭(6 月、12 月)などの主要祭典は、まず外宮で行われ、そののちに内宮で行われる と説明されています。これが「外宮先祭」と呼ばれる順序です。

この順序は、参拝にもそのまま反映されています。観光ガイドや旅行サイトでも「外宮 → 内宮の順に参拝するのが正式」と書かれていることが多いのは、この祭典の順序に倣っているからです。

外宮先祭の由来として、神宮司庁では「豊受大御神が天照大御神の御饌都神として鎮座されたという縁起にもとづく」という趣旨の説明が示されています(『神宮要綱』参照)。詳細な経緯については複数の説があり、現在でも研究が続いている分野です。

ただし内宮の参拝記事でも書いたとおり、時間や交通の都合でどちらか一方しか参拝できないことはあります。その場合に「順序を守らないと失礼にあたる」ということはなく、片方だけでもきちんと参拝すれば構わない、というのも神宮側の見解です。「外宮先祭は 望ましい順序」であって、強制ではありません。

独自性 3 ― 左側通行と参道の構造

参拝の作法でも、外宮には内宮と違うところがあります。

代表的なのが 「外宮は左側通行」 という案内です。内宮は右側通行なので、ちょうど反対になります。

あい:指差し

これは、御手洗場(みたらしば)や正宮の位置関係から、参拝者の流れが自然と左を歩く形になっているためとされています。「内(うち)は右、外(そと)は左」というセットで覚えておくと、参道の手前で迷わずに済みます。

外宮の参道には、火除橋(ひよけばし)を渡ったあと、すぐに 手水舎(ちょうずや) があります。内宮のように川辺で清めるかわりに、ここで一般的な作法 ― 左手 → 右手 → 口 → 左手 ― で清めるのが基本です。

正宮の前での拝礼は、内宮と同じく 二拝二拍手一拝。正宮で個人的なお願いごとよりも日々の感謝を中心に、というのも内宮と共通の作法です。

独自性 4 ― 別宮の構成

外宮の境内には、正宮のほかに 域内別宮 が 3 社あります。

  • 多賀宮(たかのみや) ― 豊受大御神の荒御魂(あらみたま)をお祀りする。外宮では最も格の高い別宮
  • 土宮(つちのみや) ― 大土乃御祖神(おおつちのみおやのかみ)。山田原(やまだのはら)の地主神
  • 風宮(かぜのみや) ― 級長津彦命(しなつひこのみこと)・級長戸辺命(しなとべのみこと)。風雨を司る

Ise-Shrine Geku-Kazenomiya 風宮

出典: MaedaAkihiko, Wikimedia Commons / CC0

風宮は、内宮の風日祈宮(かざひのみのみや)と対をなす存在です。元寇のときに「神風」を吹かせたとして、両宮ともに別宮へと格上げされた経緯が伝わっています。

正宮にお参りしたあと、時間があれば多賀宮 → 土宮 → 風宮の順で巡るのが、神宮司庁公式サイトでも示されている一般的な順路です。多賀宮は石段を上った高台にあり、外宮のなかでも少しだけ厳かな空気が漂う場所です。

なお、外宮には 域外別宮 として 月夜見宮(つきよみのみや) が伊勢市駅の北側にあり、こちらもお参りする方が少なくありません。月夜見尊(つきよみのみこと)をお祀りする宮です。

おじいちゃんと外宮を歩いた朝

あい:歩いている

おじいちゃんが朝の散歩で外宮に行くというので、ついて行ったことがあります。日別朝夕大御饌祭の朝の時間帯に近かったので、参道はいつもよりもしんとしていました。

火除橋を渡ったところでおじいちゃんが立ち止まって、「ここからは左を歩くんだぞ」と教えてくれました。内宮の右側通行はなんとなく覚えていたのに、外宮が逆だということは、あたしはそのとき初めて知りました。あとから神宮司庁の案内を確認したら、本当にちゃんと左側通行と書かれていて、ちょっと恥ずかしかったです。

おじいちゃんは正宮の前で深くお辞儀をしたあと、「外宮は、内宮の神様にごはんを差し上げるための宮なんだよ。だから、ここを先にお参りするんだ」と短く言いました。あたしは、その「ごはんを差し上げる」という言い方が、なんだかすごく親しみやすくて、外宮のことを少し好きになった気がしました。

参拝が終わったあと、せんぐう館(神宮の式年遷宮を紹介する展示館)の前を通って帰りました。式年遷宮の御正殿模型や、御神宝の複製が展示されていて、第 63 回式年遷宮を 8 年かけて見届けるあたしたちには、心強い場所だなあと思いました。

まとめ ― 外宮を歩くと、神宮の見え方が変わる

外宮の独自性をもう一度整理しておきます。

  1. 豊受大御神 ― 衣食住を司る御饌都神をお祀りしている
  2. 日別朝夕大御饌祭 ― 1500 年続く朝夕の御饌の神事。御饌殿は外宮にしかない
  3. 外宮先祭 ― 祭典・参拝ともに外宮が先という神宮独自の順序
  4. 左側通行 ― 内宮の右側通行とは反対の作法
  5. 別宮の構成 ― 多賀宮・土宮・風宮の 3 社 + 域外別宮の月夜見宮

外宮の参拝は、火除橋から正宮までを往復するだけなら 40〜60 分ほどで歩けます。別宮を含めても 1 時間半ほどで一巡できる、内宮よりも少しコンパクトな宮です。

伊勢に来たら、まずは伊勢市駅で降りて、駅から徒歩 5 分の外宮へ。そこから内宮へ移動する、という順番で歩くと、神宮 125 社の世界がよりはっきり見えてきます。あいとしては、観光のチェックリストとして「内宮だけ」になりがちな伊勢参拝に、外宮の朝の時間をひと足ぶん足してみてほしいなあ、と思っています。

参拝順序の細かい作法については、内宮(皇大神宮)の参拝順序と作法 もあわせて読んでいただけると、内宮と外宮の違いがより立体的に見えると思います。

それでは、また次の記事で。


出典・参考: 神宮司庁公式サイト(isejingu.or.jp)/『神宮要綱』