五十鈴川・御手洗場の季節ごとの表情 ― 在住者が見てきた一年

こんにちは、あいです。

内宮(皇大神宮)の参道を進むと、第一鳥居の手前あたりで五十鈴川のほとりに降りられる場所があります。手と口を清める 御手洗場(みたらしば) ですね。観光ガイドだと「参拝前にお清めをする場所」と一行で書かれて終わってしまうのですけど、ここに立ってみると、季節によって本当に違う顔をしているんです。

あい:立ち姿で挨拶

このブログは在住者目線で淡々と記録するのが基本なので、今回は御手洗場が一年でどう変わるのか、あたしが歩いてきた範囲でまとめてみます。参拝の作法や順序そのものは 内宮の参拝順序と作法 の方に書いてあるので、ここでは「川そのもの」と「周りの森」を見つめる回にしますね。

御手洗場ってどんな場所?

御手洗場は、宇治橋を渡って参道を 5 分ほど進んだ、第一鳥居の少し先にあります。神苑(しんえん)から石畳を数段下りて、川の流れに直接手を浸せる場所です。

一般的な神社では手水舎(ちょうずや)で柄杓を使いますが、内宮では清流そのもので清めることができるのが大きな特徴です。神宮司庁公式サイトでも、「五十鈴川の御手洗場で身を清めてから参拝する」という案内が出てきます。

由緒としては、倭姫命(やまとひめのみこと)が裳の裾を濯がれたことから「御裳濯川(みもすそがわ)」とも呼ばれる、という説が広く伝わっています(『神宮要綱』参照)。古文献を読むと別の説もあるので、ここは「複数説あり」として受け止めるのがよさそうです。

春 ― 山桜と若葉と、ぬるみはじめた水

春の御手洗場は、まだ少し冷たさが残っているけれど、冬のような刺すような感じが抜けてきます。3 月の終わりから 4 月の初めにかけて、川の上流側の森で山桜がぽつぽつと咲いて、川面にかすかに花びらが流れてくる年もあります。

あい:春の場面

ソメイヨシノの群生地のような派手さはなく、神苑の奥の方で「あ、咲いてる」と気づくくらいの控えめさが、内宮らしいなと思います。新緑が一気に動き出すのは 4 月の後半。砂利を歩く音より、葉のすれる音の方が大きくなる、という感じです。

五十鈴川・御手洗場付近(参道側からの眺め)

出典: Daderot, Wikimedia Commons / CC0

水温はまだ低めなので、手を浸すと数秒で「キンッ」とくる時期です。あたしはこの時期、手のひらをそっと流れにつけるだけにして、口は手水舎の方ですすぐようにしています。

夏 ― 木陰と蝉と、増水のあと

夏の御手洗場は、まず周りの森が圧倒的に濃くなります。神苑の杉やヒノキの大木に陽が遮られて、参道は思いのほか涼しい。川の水も、外の気温に比べるとずっと冷たく感じます。

蝉の声は 7 月の半ばから 8 月いっぱいが本番です。御手洗場で身をかがめていると、声が川面ではね返って頭の上から降ってくる感じがします。観光客の方が「うわ」とちょっと驚かれているのを、何度か見ました。

注意したいのは、台風や梅雨後半の 増水 です。五十鈴川は山の水を直に集める川なので、まとまった雨のあとは水位が一気に上がります。御手洗場が水の下に隠れて立ち入りが制限されることもあるので、雨の翌日に行くときは神宮司庁の最新案内を確認しておくのがおすすめです。

秋 ― 紅葉と低い夕日

御手洗場の秋は、11 月の半ばから 12 月の頭にかけて、川の両岸の楓や紅葉が色づきはじめます。京都のような派手な紅葉ではなく、杉の濃い緑のあいだに、赤や橙がぽつぽつと混ざる落ち着いた風景です。

五十鈴川の流れ(秋の光のなかで)

出典: Daderot, Wikimedia Commons / CC0

この季節に特におすすめなのは、午後の遅い時間です。秋の夕日は角度が低くて、川面に斜めに落ちてくる光が水のなかの石を浮かび上がらせます。混雑のピークは午前中なので、15 時すぎに御手洗場に下りると、人が引きかけた静けさのなかで色を眺められる年が多いです。

冬 ― 透明度がいちばん高い季節

意外に思われるかもしれませんが、御手洗場が いちばんきれいに見える のは冬だと、あたしは思っています。

あい:冬の場面

水量が落ち着き、水温が低く、水のなかに沈んでいる藻のような緑が引いて、底の小石まで透けるように見えます。1 月の早朝に下りると、川面から薄く湯気のように川霧が立つ日があって、これは在住者でもなかなか巡り合えない景色です。

ただし冷たさは本物で、素手を浸すと数秒で感覚がなくなります。おじいちゃんから「冬の御手洗は、手を清めるというより、自分が清められる感じだぞ」と言われたことがあるのですけど、あの冷たさを経験すると、ちょっと分かる気がします。冬は無理せず手水舎を使う、というのも全然ありです。

おじいちゃんと歩いた朝

子どものころ、おじいちゃんに連れられて秋の朝の御手洗場に下りたことがあります。あたしは石畳の段差でつまずいて、川辺に膝をついてしまって、おじいちゃんに「神様の前だぞ」と小さく笑われました。今思い出しても恥ずかしいです。

ただそのとき、おじいちゃんは「川は毎年同じように見えて、毎年少しずつ違うんだよ」と言いました。同じ場所に何度も通うからこそ気づける小さな差を、ちゃんと記録するのが在住者の仕事だぞ、と。あたしがこのブログで季節記事を書くときに、いつも頭の片隅にあるのはその言葉です。

まとめ ― 同じ場所を、何度も通って見る

御手洗場は、観光のチェックリスト上では「参拝前に手を清める場所」というひと項目ですが、季節を変えて何度か立ち止まると、川そのものが季節を語ってくれる場所でもあります。

  • : 山桜・若葉・ぬるみはじめた水
  • : 木陰・蝉・増水に注意
  • : 紅葉・低い夕日・午後の静けさ
  • : 透明度・川霧・刺すような冷たさ

参拝のついでにいちど下りるだけでも十分なのですが、近くを通る機会が多い方は、季節を変えてもう一度 御手洗場まで降りてみてください。同じ五十鈴川の流れが、まったく違う表情で待っています。

それでは、また次の記事で。


出典・参考: 神宮司庁公式サイト(isejingu.or.jp)/『神宮要綱』