師走の伊勢、年を越す準備の風景——注連縄の掛け替えと大祓のあいだで

こんにちは、あいです。

伊勢の年末というと、たぶん多くの方が思い浮かべるのは大晦日から元日にかけての、あの内宮の人の波だと思います。でも在住者として十二月の伊勢を歩いていると、いちばん印象に残るのはむしろ、その手前の三週間くらいの、誰も見ていないところで淡々と進んでいく「支度」のほうだったりします。

看板が出るわけでもないし、写真映えするわけでもない。ただ、通りの家の玄関先や、海沿いの神事や、神宮の森の中で、それぞれの持ち場の準備が同時進行で進んでいく。そういう十二月の空気を、今日は書き残しておこうと思います。

なお、この記事は季節の記録として書いているので、実際に十二月に伊勢へ来られる方は、日程や内容をその年の直前に神宮司庁公式サイト( https://www.isejingu.or.jp/ )などで確かめてくださいね。

あい:立ち姿で挨拶

玄関の注連縄が、一年ぶりに新しくなる

伊勢に来た方がよく驚くのが、玄関の注連縄です。ふつうお正月の飾りだと思われているものが、伊勢では一年中かかったままなんですよね。あたしも最初、「あれ、去年の外し忘れかな?」と本気で思っていました。恥ずかしい話です。

あい:てへ(照れ)

これは外し忘れではなくて、伊勢地方に古くから伝わる風習です。木札に「蘇民将来子孫家門(そみんしょうらいしそんかもん)」と記されたものが多く、素戔嗚尊(すさのおのみこと)に一夜の宿を貸した蘇民将来という人物の伝承にちなむ、と伝えられています。この伝承の細部については地域や資料によって語られ方に幅があるので、あたしとしてはここを断定的には書きません。ただ、「掛けたままにしておくもの」という点は、伊勢の家々でごく普通に共有されている感覚です。

そして一年中かかっているからこそ、年末に一度、新しいものへ掛け替えます。十二月に入ると、商店街や道の駅、スーパーの店先にも注連縄が並びはじめて、通りの家の玄関先が数日のあいだに少しずつ新しくなっていく。派手なことは何も起きないのだけれど、あたしはこの「じわじわ新しくなっていく通り」の感じが、伊勢の年末でいちばん好きな風景です。

おじいちゃんは毎年、けっこう早い時期に掛け替えを済ませてしまいます。去年、あたしが「まだ十二月に入ったばかりなのに早くない?」と聞いたら、「押し詰まってからやると、ただの作業になる」と言われました。なんとなく、わかる気がしました。

二見の海で——夫婦岩の大注連縄張替

十二月の伊勢の年末支度で、いちばん形として見えやすいのが二見興玉神社の夫婦岩の大注連縄張替神事だと思います。

夫婦岩に張られている大注連縄は、潮風と波を一年中受けているので、定期的に張り替えられます。例年は年に数回、そのうちの一回が十二月に行われていて、氏子の方々が海に入って古い注連縄を外し、新しいものを張っていきます。実施日はその年によって変わりますし、当日の海の状況にも左右されるので、見に行かれる場合は二見興玉神社の案内で日程を確認してから向かうのが確実です。

夫婦岩(二見浦)

出典: Douglas Perkins, Wikimedia Commons / CC BY 4.0

十二月の二見の海は、風がまっすぐ体に当たってきて、正直かなり寒いです。それでも氏子の方々が腰まで海に入って作業をされているのを見ていると、こちらが寒がっているのがなんだか申し訳なくなってきます。二見という場所そのものの成り立ちについては 二見浦と夫婦岩、禊の場としての来歴 に書きました。

神宮の十二月——大祓へ向かう静けさ

神宮では、年に二度の大祓(おおはらえ)があります。六月と十二月の晦日に行われるもので、半年のあいだの罪や穢れを祓う、という趣旨のものです。大晦日の大祓は、神宮の一年の締めくくりにあたる祭儀のひとつになります。

祭儀の詳しい次第や、参列できるかどうか、拝観のかたちについては、あたしが在住者として見聞きした範囲で断定的に書くべきことではないので、神宮司庁公式サイトの案内を確認していただくのがいちばんです。

ただ、参拝者として十二月中旬から下旬の内宮・外宮を歩いていて感じるのは、境内が「静かなまま、準備が進んでいる」ということです。年が明ければ、この参道は一年でいちばんの人出になります。その落差を知っているぶん、十二月後半のまだ静かな参道を歩く時間は、在住者にとってはちょっと贅沢な時間です。

初詣の混雑をどう避けるか、という現実的な話は 伊勢の初詣、在住者の混雑回避ノート にまとめてあります。

あい:本を持って解説

おじいちゃんと歩いた十二月の参道

去年の十二月の終わりごろ、おじいちゃんと外宮を歩きました。まだ人はまばらで、砂利を踏む音がやけに大きく聞こえるくらいの静けさでした。

あたしが「もうすぐここが人でいっぱいになるって、なんだか信じられないね」と言ったら、おじいちゃんは少し黙ってから、「この静かさがあるから、あの賑やかさが成り立つんだ」と言いました。年末の支度というのは、賑やかな正月のための前段階じゃなくて、それ自体がひとつの季節なんだ、というようなことだったんだと思います。

そのあと帰り道で、おじいちゃんが「餅は買ったのか」と聞いてきて、あたしが「まだ」と答えたら「毎年それだな」と笑われました。毎年言われている気がします。

あい:座っておじいちゃんと会話

まとめ——十二月の伊勢を歩くなら

十二月の伊勢は、大晦日と元日という「本番」に目が行きがちですが、在住者としての実感では、見どころはその手前に散らばっています。

  • 十二月上旬〜中旬: 玄関の注連縄が家ごとに少しずつ新しくなる。通りを歩くのが楽しい時期
  • 十二月中旬ごろ: 二見で夫婦岩の大注連縄張替。日程は年により変わるので事前確認を
  • 十二月後半: 内宮・外宮の参道はまだ静か。正月前の落ち着いた参拝ができる時期
  • 十二月晦日: 神宮の大祓。年の締めくくりの祭儀

旅行として十二月の伊勢を組み立てるなら、大晦日を狙うより、中旬あたりの平日に来て、注連縄が新しくなっていく通りと静かな参道を歩くほうが、あたしとしてはおすすめしたい過ごし方です。おかげ横丁の一年全体の流れは おかげ横丁の季節催事カレンダー に、年明け以降の話は 節分と祈年祭、伊勢の二月 にそれぞれ書いています。

このブログは第六十三回神宮式年遷宮の八年間を記録していく予定なので、年末の風景もこれから毎年、少しずつ書き足していきます。今年の師走の伊勢がどんなふうだったか、また残しておきますね。

あい:お辞儀

それではまた、別の記事でお会いしましょう。