雨の日の神宮参拝、在住者の知恵 — 御手洗場が使えない日と、風の神様のこと

こんにちは、あいです。 7 月も終わりに近づいて、伊勢は夕立の季節になりました。朝は晴れていたのに、午後になると急に空が暗くなって、ざあっとひと雨。そんな日が続いています。

あい:立ち姿で挨拶

先日、縁側で雨音を聞いていたら、おじいちゃんがぽつりと「神宮は雨の日のほうが、森の顔がよく見える」と言いました。動線や持ち物の話は前に 雨の日の参拝動線の記事 で書いたので、今日はその続きというより、もう一歩踏み込んだ話。雨の日だからこそ出会える神宮の表情と、御手洗場が使えない日の作法の知恵、そして「風の神様」のことを書いてみます。

雨の日の社叢は、音と匂いでできている

内宮の参道を覆う社叢(しゃそう)は、晴れた日には木漏れ日の場所ですが、雨の日はまったく別の顔になります。葉に当たる雨の音が幾重にも重なって、参道全体がひとつの大きな屋根の下にいるような音になるんです。人が少ないぶん、玉砂利を踏む自分の足音と雨音だけが聞こえる時間が続きます。

匂いも変わります。濡れた土と樹皮の匂いが立ち上って、杉の香りがいつもより濃く感じられます。あたしは最初、「雨の日の参拝はがまんの日」だと思っていたのですが、何度か歩くうちに、これは雨の日にしか開かない引き出しなんだと考えが変わりました。

御手洗場が使えない日は、手水舎で清める

内宮では、宇治橋を渡って参道を進んだ先に手水舎があり、さらに進むと五十鈴川の御手洗場(みたらし)に下りられます。川の流れで手を清めるあの場所は内宮参拝の楽しみのひとつですが、雨が続いた日は五十鈴川が増水して、川面がいつもより近く、流れも速くなります。

そういう日は、無理に御手洗場に下りないこと。これは在住者がみんな守っていることだと思います。石段は濡れると滑りやすく、増水した川辺は見た目以上に危険です。手水舎でお清めをすれば参拝の作法として何も欠けることはないので、雨の日は「今日は手水舎の日」と最初から決めてしまうのが楽です。

五十鈴川の水位や表情は季節でずいぶん変わるので、川そのものの話は 五十鈴川御手洗場の季節の表情 も読んでみてください。

傘とお辞儀の、ちいさな工夫

作法として決まりがあるわけではないのですが、雨の日の参拝であたしが心がけていることがふたつあります。ひとつは、鳥居の前で一礼するとき、隣の人に傘のしずくがかからないよう半歩ぶん間を取ること。もうひとつは、お参りの列に並ぶときに傘を少しすぼめて、後ろの人の視界をふさがないことです。

どちらもおじいちゃんの受け売りで、「作法というのは結局、まわりの人への気配りのことだ」そうです。雨の日は誰もが傘で視界が狭くなっているぶん、こういう小さな工夫がお互いを助けるのだと思います。

雨の日に思い出したい「風の神様」

雨の日の参拝でぜひ足を運んでほしいのが、風の神様をお祀りするお宮です。神宮司庁の公式サイトによると、外宮の別宮「風宮(かぜのみや)」と内宮の別宮「風日祈宮(かざひのみのみや)」は、どちらも級長津彦命(しなつひこのみこと)・級長戸辺命(しなとべのみこと)という風雨を司る神様をお祀りしています。

外宮の別宮・風宮

出典: MaedaAkihiko, Wikimedia Commons / CC0

農作物が育つには、雨も風も、多すぎず少なすぎず順調であることが欠かせません。神宮では毎年 5 月 14 日と 8 月 4 日に「風日祈祭(かざひのみさい)」というお祭りが行われて、風雨の災害がなく、五穀が豊かに実るようにと祈りが捧げられます。ちょうどこの記事を書いている今、8 月 4 日のお祭りが目前です。

鎌倉時代の元寇の際にこの神様が神風を吹かせたと伝えられ、それを機に別宮に昇格したという歴史も残されています。傘を打つ雨の音を聞きながら風宮の前に立つと、「雨風が穏やかでありますように」という祈りが千年近く続いてきたことが、晴れた日よりずっと近くに感じられます。

あい:本を持って解説

おじいちゃんに教わった「雨儀」の話

おじいちゃんが教えてくれたのですが、神社の祭典の作法には「晴儀(せいぎ)」と「雨儀(うぎ)」という区別があるのだそうです。つまり、雨が降ったからお祭りが中止になるのではなく、雨の日には雨の日の作法があらかじめ用意されていて、祈りは天気に関係なく続けられていく、ということ。

これを聞いたとき、あたしはちょっと感動してしまいました。神宮では朝夕に神様へお食事を捧げるお祭りが毎日続けられていますが、それは台風の日も梅雨の長雨の日も変わりません。雨の日に参拝するというのは、その「止まらない日常」の側に、少しだけお邪魔させてもらうことなのかもしれません。

正直に言うと、あたしは先月、夕立に降られて内宮の参道で立ち往生したことがあります。木々の下で雨脚が弱まるのを待っていたら、雨に濡れた社殿の千木がつやつやと光っていて、思わず見とれてしまいました。帰ってからおじいちゃんに話したら、「それは良いものを見たな」と、少しうらやましそうでした。

まとめ — 雨の予報こそ、神宮の日

雨の日の神宮参拝を、在住者の知恵としてまとめるとこうなります。

  • 増水した日は御手洗場に下りず、手水舎で清める
  • 鳥居の一礼は半歩の間を取り、列では傘をすぼめる
  • 外宮なら風宮、内宮なら風日祈宮へ。雨の日ほど「風の神様」の意味が沁みる
  • 祭典には雨儀という雨の日の作法があり、祈りは天気で止まらない

参拝の基本の順序や作法は 内宮参拝の順序と作法 にまとめてあります。8 月 4 日の風日祈祭の頃、もし伊勢の空が雨模様だったら——それはむしろ、風と雨の神様にお参りするのにいちばんふさわしい日なのかもしれません。